ダニ・ロドリック著『グローバリゼーション・パラドクス−世界経済の未来を決める三つの道』(2011=2013)

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

タイ・バーツの暴落から始まったアジア通貨危機(1997-98)や過剰な資金が米住宅市場になだれ込んだリーマン・ショック(2008)、そしてギリシャ債務不履行問題に端を発した欧州財政危機に象徴的に現れているように、世界経済はここ20年、危機が常態化している。一方、この「危機の二十年」は金融グローバリゼーションが喧伝された時代でもある。1980年代以降、米国主導で進んだ国際的な金融市場の自由化と規制緩和による国際資本取引の活発化は、東アジアの新興国に急激な経済成長をもたらすとともに、輸出産業を中心に日本にも未曾有の好景気をもたらした。ただ、慢性化する危機は、グローバリゼーションをめぐる議論を一変させている。NBC/WSJの合同世論調査によると、米国でグローバリズムを支持する人はリーマン・ショック前の2008年3月時点ですら25%にとどまり、経済論壇でも自由貿易の強力な擁護者だった論客の歯切れは悪い。本書は、ノーベル賞受賞者を多数輩出してきた世界的研究機関、プリンストン高等研究所の教授による異色のグローバリズム論で、ブレトンウッズ体制に始まる戦後経済史を下敷きに、現代の危機とその処方箋を極めて穏当な形で提示したものだ。とりわけ、近年、日本の経済論壇でも広く受け入れられた「政治的トリレンマ(fundamental political trilemma)」を用いた分析はユニークである。ロドリック教授によると、現今の世界情勢は、グローバリゼーション(economic globalization)と国家主権(national determination)、そして民主主義(democracy)を同時に追求することを許さず、どれか一つを犠牲にするトリレンマを強いているという。教授はこうした基本認識に立ちながら、国家主権と民主主義を擁護するとともに、無規制な金融グローバリズムに網を掛けることを提言する。こうした処方箋は、バブルとクラッシュを繰り返す現状の資本主義メカニズムを的確にあぶり出すだけでなく、グローバリゼーションと民主主義が両立できると素朴に考える日本の世論に冷水を浴びせかけるのは間違いない。また、国論を二分する事態になったTPP問題や不透明な欧州情勢など、世界経済をめぐる問題は日本人にとってこれまで以上に切実な問題になっている。

序章 グローバリゼーションの物語を練り直す
第一章 市場と国家について
第二章 第一次グローバリゼーションの興隆と衰退
第三章 なぜ自由貿易論は理解されないのか?
第四章 ブレトンウッズ体制、GATT、そしてWTO
第五章 金融のグローバリゼーションという愚行
第六章 金融の森のハリネズミと狐
第七章 豊かな世界の貧しい国々
第八章 熱帯地域の貿易原理主義
第九章 世界経済の政治的トリレンマ
第十章 グローバル・ガバナンスは実現できるのか? 望ましいのか?
第十一章 資本主義3.0をデザインする
第十二章 健全なグローバリゼーション
終章 大人たちへのお休み前のおとぎ話