ベラ・バラージュ著『視覚的人間ー映画のドラマツルギー』(1924=1986)

視覚的人間―映画のドラマツルギー (岩波文庫 青 557-1)

視覚的人間―映画のドラマツルギー (岩波文庫 青 557-1)

19世紀末に発明されて以来、映画はまたたく間に人々の生活に欠かせぬ娯楽の一つとなった。本書は、D.W.グリフュスらが旺盛な制作活動を行い、無声映画がその絶頂の登路にさしかかった1924年に発表された先駆的映像論。クローズ・アップ、モンタージュ論を中心に映画という新しい視覚芸術の持つ独自の表現、原理、可能性を追求する。

序言-三つの口上
 我々は入場許可を求める
 映画監督およびその他すべての専門家諸氏へ
 創造的享受について
視覚的人間
映画のドラマツルギーのためのスケッチ
 映画の実体
 類型と相貌
 表情の動き
 クローズ・アップ
 事物の顔
 自然と自然らしさ
 映像構成
 断片的補遺
 世界観
二つの肖像
 チャップリン-アメリカの阿呆
 アスタ・ニールセン-その愛の演技と老け役の演技

36 おそらくバラージュは、印刷術の発明以降、喪失されていった身体の感覚(「見える精神」→「読まれる精神」、「視覚の文化」→「概念の文化」)が、映画芸術により抑圧の回帰として復活しつつあると見ている。
49「それゆえ映画は特に内面の出来事の展開を描く際には眼に見えるここの瞬間の欠落のない連続性を必要とする。映画は純粋視覚性という混ぜ物のない素材から作り上げなければならない」
51 アメリカ映画への高い評価「話全体はおそらく愚にもつかぬものかもしれないし、下らない作り話であるかもしれない。しかしここのm−メンとはほかほかした生に満ちているので〈本当に息吹きが感じられるほどである〉。なぜ主人公があることをするかということは、たいての場合どうでもいいのである。いかに主人公がそれをするかという、その仕方には温かい血が通っている。主人公の運命には中身がないが、彼の一分一分は豊かに形象化されているのだ」