森久聡「地域政治における空間の刷新と存続ー福山市・鞆の浦「鞆港保存問題」に関する空間と政治のモノグラフ」『社会学評論』Vol. 59 (2008-2009) No. 2 P 349-368

リンク

都市空間は,社会過程の所産である一方で社会関係の在り方を規定する条件ともなりうる.本論文は,ある地域社会における都市空間の刷新と存続をめぐる意見対立を切り口に,社会層と政治的表象の空間の関係を読み解いてゆく.対象事例は,福山市鞆の浦鞆港保存問題」である.鞆の浦では長い歴史において施政者による港湾整備事業が港湾機能と政治的地位の変動をもたらしてきた.そして現在,鞆港を埋め立てて架橋する公共事業が計画され,その賛否が地域を2分している.本稿は建設派/保存派の各住民が複数の社会層で構成されている点に注目し,社会層と政治的地位,居住区,空間的記憶の相関関係を分析した.
その結果,(1)建設派は,自らの政治的地位を示す都市空間の実現のために道路計画を支持する地域指導者層と地域共同体の中核的空間が鞆港ではない社会層が中心となること,(2)保存派は,鞆港の空間的記憶の再評価を目指した次世代の地域指導者層,港町としての社会的連帯の空間的基盤を保護しようとした女性・主婦層,鞆港が支えてきた伝統的な政治的地位の維持を志向する旧名望家層によって構成されていること,(3)地域住民は鞆港を政治的地位を表象する空間として捉え,その刷新/存続がもたらす政治的地位の変動が対立点であることを明らかにした.都市空間は空間的記憶を介して現在に生きる人々の実践とその社会的世界を規定しているのである.

都市への権利 (ちくま学芸文庫)

都市への権利 (ちくま学芸文庫)

空間の生産 (社会学の思想)

空間の生産 (社会学の思想)

東京のローカル・コミュニティ―ある町の物語一九〇〇‐八〇

東京のローカル・コミュニティ―ある町の物語一九〇〇‐八〇