本多真隆「花柳界の「家族主義」―1930 年代前後における「家族」言説とその過渡的性格─」『ソシオロゴス』2014年38号

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「日本の公娼制度は我国の家族制度、家族主義の根拠に関連して居る」。これは、1935 年のある国会議員の発言である。本稿の主な作業は、この発言と同時期に主張されていた、花柳界の「家族主義」の意味内容の分析と、こうした語りを可能にした 1930 年代前後の「家族」言説の一端を解明することである。検討の結果、こうした主張は、論者が花柳界の女性に見出した「犠牲」の精神と、花柳界における「家族」的な営業を根拠としていることが明らかになった。「犠牲」の精神は、花柳界の女性が「家族」のために「身売り」をしていたという来歴を指す。そして「犠牲」の精神は、同時期の言説空間において高い象徴的価値を与えられていた。結論部では、検討した「家族」言説の過渡的性格と花柳界の関係について言及し、本稿の意義を位置づけた。