港千尋著『芸術回帰論ーイメージは世界をつなぐ』(2012)

芸術回帰論 (平凡社新書)

芸術回帰論 (平凡社新書)

3・11を契機に浮かび上がった現代文明の問題の根源は、理系・文系の文化の乖離にあった。自然科学の暴走を容認してきた社会の在り方を変革するため、芸術の役割を問い直す。 3.11を機に浮かび上がった現代文明の問題の根底には、理系と文系のあいだにおける決定的な文化の乖離、すなわちコミュニケーションの不可能性が存在していた。自然科学の暴走を容認してきた社会の在り方を変革するため、いま、身体感覚に基づいた「共通言語」を取り戻し、新たに創造していくための場をここに開く。分裂がすすむ危機の時代に想起すべきは、科学的思考と芸術をつなぐイメージの力である。

第一章  芸術への回帰
不可能な選択/二分法と美術/第三の系
カメラと写真/痕跡の発明/ふたりのハーシェル
マチュアと創造性/生産するアマチュアの時代
生産消費者/ブリコラージュの思考/機械と神社
アイヌのデザイン/情報化時代のブリコラージュ/芸術への回帰

第二章  グローバルイメージの時代
最古の広告?/グローバルなイメージ/イメージの偏在性
遍在性の時代へ/マネーの誕生/モネータの神殿
貨幣の顔/ユーロの運命/フランチャイズされる世界
モバイル性の歴史/動産芸術/移動する建築/固有の空間

第三章  創造性とは何か
創造性/ノベルティと二重の時間/空間としてのコンセプト
概念空間の概念/連絡するイメージ/瞬間と記憶
断続的な知覚/モザイク状の眼差し/分岐する流れ
物質と経験/記憶の創造性/ビデオの空間/何が起きているのか
時間を描く絵/流れと遅れ/歩行の創造性

第四章  近隣の発見
月への旅/つながる社会で探すこと/探すということ
パズルの起源/検索可能な世界/知的愉しみとは
道と番地/住所とイメージ/マニュアルのデザイン
消えゆく地名/非常時における近隣/近隣という未知
イベントとしての集まり/点から面へ/地名論
近接性の芸術/遊歩から生活圏へ

第五章  歴史のイメージ
最適な距離/歴史と眺望/解像度の時代へ
探究としての歴史/未来とのつながり/止まった時計
種の鏡/生き延びるイメージ/検証としての撮影
怪物と向き合うために/生きるよすがとして

第六章  文化としての色
暗さの文化/絵画の暗さ/無彩の色
色と安定/屋根瓦の美/着色の世界
ニュートンゲーテ/ふたつの色彩/観察者と個人
個人の色は世界の色/色の名前/色と無意識
青の歴史/包囲する光

第七章  文字の創造
文字とは何だろう/文字とその空間/縦書きと視界
混合体の文化/活字の旅/文字の母
歴史としての書体/計算と感覚/「タイポロジック」展
インタラクションとしての文字/詩と絵文字/遊びの感覚
タイポロジックの未来/歴史とその使用

読書の美しさについて
さまざまな本/美術の描く本/読書の秩序
断片化と空間化/読書と無限/どちらが生き延びるか
フィルタリングの炎/秩序と象徴
難民の読書/終わりなき旅