- 作者: 赤川学
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 1999/04/01
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明治以降近代日本のセクシュアリティはいかに形成され、どのように変容したか。重層する膨大な言説資料を渉猟、分析することで、日本のセクシュアリティ言説形成過程に見出された一定のパターンを、オナニーに関する言説に焦点をあてて検証する。また、性に対して与えられてきた2つの意味論、すなわち「性=本能論」と「性=人格論」がどのように拮抗し交錯して慣習や制度を形成してきたかを素描する。哲学、理論社会学、フェミニズムなど現在までのセクシュアリティ研究の成果に理論的検討を尽くしたうえで、考えられる限りの資料を検証する方法論の確立を目指す。これはセクシュアリティの歴史社会学の誕生宣言である。
[理論編]
第一章 セクシュアリティの概念定義をめぐって
1 「セクシュアリティ」という概念
2 <本質主義・対・構成主義>再考
3 ジェンダー、セクシュアリティ概念定義の本質的困難
4 セクシュアリティ概念の言語論的転回
5 無定義概念としてのセクシュアリティ
第二章 歴史社会学としてのフーコー
1 フーコー・インパクト
2 近代主体の系譜学――フーコーの研究遍歴
3 セクシュアリティの歴史
4 フェミニズムとフーコー
5 言説分析という方法
6 言説分析への援軍
第三章 セクシュアリティの歴史社会学の方法基準
1 社会学における、テーマとしての「性愛」の浮上
2 テクスト・クリティークについて
3 言説の「質」の問題
4 性愛の理論化
5 セクシュアリティと主体性の理論図式
6 日本社会診断の問題
7 セクシュアリティの歴史社会学への出立[歴史編]
第四章 開化セクソロジーのエピステーメー
1 『造化機論』の登場
2 開化セクソロジーに対する評価
3 開化セクソロジー・ブームの全貌とその問題系
4 処女膜の近代
5 開化セクソロジーの情欲論
第五章 オナニー有害論の内発的発展
1 上野―小田論争で残された問題
2 開化セクソロジーにおけるオナニー言説
3 近代以前の日本社会におけるオナニー観
4 オナニー有害論の内発的発展論
第六章 オナニー有害論の言説化
1 開化セクソロジーとの断絶
2 医学界の成立と『東京医事新誌』誌上のオナニー論争
3 オナニー言説の領域分化
4 新興学界・版図拡大戦略としてのオナニー有害論
第七章 「性欲」の誕生と通俗性欲学のエピステーメー
1 「性欲」という概念
2 大拙の「性慾論」
3 通俗性欲学のエピステーメー
4 開化セクソロジーと通俗性欲学の断絶
第八章 制約のエコノミー問題
1 発動し、処理せねばならぬものとしての性欲
2 性欲のエコノミー問題
3 夫婦間性行動のエロス化
第九章 「強い」有害論
1 オナニー有害論に対する社会学的説明
2 オナニー有害論/無害論の恣意的線引き
3 「強い」有害論の言説編制
4 生きられた現実としての「強い」有害論
5 オナニー有害論のナショナリズム
6 性欲を統御する主体と修養・立身出世
7 オナニー有害論の階級/階層性
第一〇章 「弱い」有害論
1 「弱い」有害論の言説編制
2 「万病の基パラダイム」の終焉
3 オナニー有害性のラベリング理論
4 オナニーの規制緩和とオナニストの囲い込み
5 統計のトリックとレトリック
6 養生訓パラダイムとフロイティズムシンクレティズム
第一一章 性欲自然主義と性=人格論
1 性欲自然主義
2 もう一つの性欲論:性=人格論
3 性=人格論の源流1:恋愛至上主義
4 性=人格論の源流2:純潔教育
第一二章 性欲のエコノミーの変容
1 「セクシュアリティの近代」の階級/階層問題
2 澤田順次郎主幹・性雑誌の読者層
3 戦時期・戦後期の連続/不連続問題について[中間考察]
4 性欲のエコノミー秩序の完成態
5 オナニーの規制緩和
6 純潔/処女/童貞規範の変容
第一三章 オナニー至上主義とセックス至上主義
1 オナニー経験の変容
2 医学部内のオナニー必要論
3 オナニー言説の哲学化・文学化
4 オナニー言説の大衆化
5 オナニー至上主義とセックス至上主義
6 女性のオナニー論
7 性=人格論の分裂
第一四章 性欲のエコノミーから親密性パラダイムへ
1 オナニー有害論の生成と消滅
2 セクシュアリティに関する二つの意味論
3 同性愛言説の変容
4 性欲のエコノミー秩序の崩壊
5 親密性パラダイム
6 夫婦間性行動の脱エロス化
7 性=人格論という梏桎
p.38「しばしば社会学・社会思想の「偉人」たちの言葉・テクストが過剰に神聖視された上で、論理演繹的な概念体系が前もって構築され、それに基いてデータが解釈される」「グレイザー&ストラウスのいうところの「誇大理論(grand theory)」、佐藤郁哉いうところの「天下り理論」に相当する」
- 作者: バーニー・G.グレイザー,アンセルム・L.ストラウス,後藤隆,水野節夫,大出春江
- 出版社/メーカー: 新曜社
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- 作者: 小谷野敦
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- 作者: 小谷野敦
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- 作者: 盛山和夫
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p.373 (1)「性欲=本能論から性=人格論へ」。前者では性欲は、「自己や主体にとって内側にありつつ外部的であるような両義的な実在と観念される」。後者では、「性は本能ではなく、人格を構成する中核的な要素とされる」。
(2)「性を医学やセクソロジーの枠内で語ることにリアリティが存在するという、開化セクソロジー以来存続してきた構造」の崩壊。「いまや性は、大衆的な文学や若者向けの雑誌、エロ雑誌の中で、医学者のみならず文学者や評論家や、市井の人々によってさまざまな角度から語られる対象となる」
(3)「オナニーよりも、売買春よりも、婚前交渉よりも、同性愛よりも夫婦間性行動のほうがまし」という「性欲のエコノミー秩序」は、70年代以降、社会的規範の緩和や強化の説明変数としては効きが悪くなる。それに代わり、「親密性パラダイム」が決定的に重要になる。