立岩真也・稲葉振一郎著『所有と国家のゆくえ』(2006)メモ

所有と国家のゆくえ (NHKブックス)

所有と国家のゆくえ (NHKブックス)

社会の不平等はなぜ生じるのか?その原点を、「自分で作ったものは自分のもの」というロックに遡る利己的で排他的な「所有」の考え方に見出し、それに替わる「他者尊重」の清新な所有論を展開する。また「市場」が構造的に貧困を生むカラクリを明らかにし、政府の市場への介入や「分配」の理論的根拠を示す。国家の仕組みや人々の権利を原理的に考察しなおし、マルクス主義や権力論など社会再生思想の分析を通して、「もう一つの」資本主義を探究する注目の書。

まえがき 稲葉 7
第一章 所有の自明性のワナから抜け出す 13
1 社会の基礎に所有がある 14
 福祉国家の概念を壊す/所有という根本問題/いまある仕紐みを批判する/他者から始まる所有論/政治・経済の基本要素/私有に対する別の私有/「みんな」を起点にした議論の限界 批判・否定のしかた/分けてしまえばよいもの/分けられないもの
2 どこまでが自分のものか 37
 人とものとの区別/所有される対象とは何か/身体の捉え方/切離できないものが分配されない/もっと繊細な決まりがある/左翼はどれぐらいかっこ悪いか

立岩――「分配する最小国家」について 52

第二章 市場万能論のウソを見抜く 65
1 市場のロジックを検証する 66
 人が必ずもつべきもの/人的資産の二重性/「売る」と「貸す」の区別/譲渡できるもの/できないもの/区別をどのようにつけるか/平等主義・保守主義市場のダイナミズム 経済学が想定する初期条件/取引の自由は選べない/現状は現状維持なのか/ニつのタイプの社会モデル/市場から所有へのフイードバック/市場社会の不幸な事故
2 分配の根拠を示す 98
 結果の平等はなぜ評判が悪いのか/歴史原理と状態原理/嫉妬感情の正当性/再分配という発想市場/原理主義の舌矛盾/社会のダイナミズムと安定性/「物価」は安定していた方がいい/市場に対する制限/国家がやるべき三つのこと

第三章 なぜ不平等はいけないのか 125
1 平等をどのように規定するか 126
 分配のために、まず国家は要る/分配的正義と搾取論/ローマーの「機会の平等」論/機会の平等と結果の平等/効用の個人間比較/フェアネスとは何か/ゲームのルールにみるフェアネス/労働を分割する/能力の差をどう組み込むか/アソシエーショニズムとは何か/「国家が」でも、「自分たちで」でも、うまくいかない/国境を超えた分配
2 マルクス主義からの教訓 161
 マルクス主義の二枚舌構造/分析的マルクス主義者の青写真主義/何をするか、しないかを考える/乱暴に考えないこと/実行可能性について/合意は大切だが合意でしかない/体制変革論の気分的な根拠/搾取理論の間題点/不平等こそ問題である/人間改造思想への危倶/マルキシズムおよびマルクス/変革のもとについて/世界主義
3 権利は合意を超越する 187
 ノージックの権利論/規約主義と規範主義/思いを超えてあってほしという思い/ノージックロールズ、立岩理論の違い/経済学の世代間取引モデル/次世代の問題をきちんと取り込む

第四章 国家論の禁じ手を破る 207
1 批判理論はなぜ行き詰まったのか 208
 国家論の歴史/「国家道具説」から「相対的自律性」へ/批判理論への閉塞感/フーコー権力論の衝撃/悪者探しの無効化/フーコーの隘路から抜け出す/国家は単一の実体ではない/仮想から始める国家論
2 国家の存在理由 228
 なぜ国家があるのか/�q���Yの憲法学的な構想/権利の基底性/実定法の外側にはみ出すもの/不平等批判の正しいかたち/肉体レべルに根ざす不平等感/ドゥウオーキンの補償理論/本当に国家に責任はないのか/責任を問うことの不毛さ/法的に呼び出される国家/国際秩序について

稲葉――経済成長の必要性について 259
立岩――分配>成長?――稲葉「経済成長の必要性について」の後に 269

註釈 279
参考文献 295
あとがき 立岩 299

p.22 稲葉「立岩さんの議論は、私的所有の仕組みとか市場経済の仕組みに対して批判的に対峙しようという作業ですけれども、面白いのは、いわゆる共同性という足場から私的所有の限界や市場の限界を言わない、別の議論の立て方をしているところだと思うんですね」
p.23 稲葉「日本でロック・タイプの所有論を、もっとも簡明ですっきりしたかたちで展開しているのは、法哲学者の森村進さんだと思います」
p.33 立岩「ぼくが言ってることは…私の身体は私の身体であるということと、私の身体によって生産したものが私のものであるということは命題として違うということです」
p.43, 282 注21 デレク・パーフィット「中国生まれのイギリスの哲学者。功利主義者。『理由と人格』では、人格の同一性、個別性を重要視した問いそのものが実は「空虚な問い」であり、「私の自己同一性、そして私と他人との差異は程度問題だ」と主張して大きな論争を呼び起こした」
p.69 285注2 ジョン・ローマー「アメリカの数理経済学者。資本所有の不平等から搾取が生じることをゲーム理論的手法で論証し、『これからの社会主義』(1945)では、国民に平等に配分されたクーポンで企業の株式を購入する経済システムを提起した」
p.78 稲葉「ぼくの師匠にあたる中西洋さん」p.285 注5「経済学者、労働問題研究者。主著『〈自由・平等〉と〈友愛〉』(1994)の中で、資本主義の後に来るべき社会として、労働力の〈所有〉を最優先にして「市場社会」からなる「友愛主義」の社会設計を提示する」
p.108 稲葉「これは実際スミス以来言われていることであって、社会というのは共感が不可能な領域になってはいかんわけですよね。スミスは…格差があることはしかたない…と思っているけれど、でも、格差があるすぎるのは悪いことだ。お互いに共感できない。コミュニケーションが成り立たない、では困るわけで、貧乏人と金持ちは、お互いにお互いが何を考えているかわかる程度には同質な存在でなければいけないというのが大前提になっている」
p.101 ノージックの「歴史原理/結果状態原理」の比較。状態原理:そこにおける人々の幸福や社会的配分の構造を評価対象に。歴史原理:状態の良し悪しではなく、過程・手続きの適正さを評価対象とする。ロールズは前者、ノージックは後者だが自覚が不十分。稲葉は前者、立岩は後者。


※立岩先生より直接コメントをいただいたので記載しておきます。
p.175 数理マルクス経済学の代表選手の一人がローマーだが、「先駆者としては二人の日本人、置塩信雄森嶋通夫といった人たちが、メインストリームの数理経済学の土俵上でマルクスの『資本論』の理論をリコンストラクトする作業に手をつけた」
p.290 注19 置塩信雄:「マルクス経済学者。数理経済学を専攻し、マルクスの観念的でイデオロギッシュな基本定理を数学的に定式化し、資本主義社会の特性の解明にとりくんだ。おもな著書に『現代経済学』(1977)、『マルクス経済学』(1987)」
注20 森嶋通夫:「数理経済学者。数学的手法を駆使し、新古典派経済学の発展に大きく寄与した。自身はマルクス主義者ではないが、置塩と並び、数理マルクス経済学の立役者でもある。おもな著書に『動学的経済理論』(1950)、『近代社会の経済理論』(1973)」
p.181 稲葉「そういう人間改造思想っていうのは明らかにかつての社会主義にありました。しかし、これはやっぱり不健全だとう、という気持ちは、ぼくは吉原さんと共有します。松尾さんだって立岩さんだって、そういうのはいやだというに決まってると思うんです。それへの恐怖心や警戒心はけっこうぼくとか吉原直毅さんの場合は強いかなと」
p.192 (p.101の記述に関連して)稲葉「ノージックロールズを仮想論的にしていたのだけれど、おそらくロールズも主観的にはプロセス重視において人後に落ちないわけです。ロールズも実はプロセス重視の思考であり、なおかつ彼の言うところのオリジナルポジション(原初状態)の思考実験というのは、ものすごい極端な普遍主義思考である。室はそういう意味では、立岩さんも少なくとも超越的なんじゃないかな、と予想しているんですけれども、いかがですか?」
p.213 滝村隆一 - Wikipedia - 【リンク
p.253, 294 注14P.S.アティヤ「イギリスの民法学者。『法の迷走・損害賠償』(1997)において、損害賠償システムが人身損害の扱い方において不公正・非効率であることを批判的に吟味し、ノー・フォルト方式に改めるよう提言する」

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