2011年アイドルソングベスト21

 流れに乗じて今年のアイドルソングランキングを決定したものの、アイドルソングを評価することそれ自体が、自家撞着という側面が強いということを大前提として触れておきたい。太田省一が『アイドル進化論』にて用いた「批評性」と「感情移入」というファンのアイドルに対する二重の眼差しを援用すれば、80年代アイドルまで「批評性」と「感情移入」が矛盾することなくファンの中で共存していたのに比べて、90年代2000年代になると、「批評性」の眼差しが陥没し、「傷つく少女たち」という被虐性をフックに感情移入するのがファンのアイドルに対する唯一の消費形態として残った。

 太田の雑駁なアイドル史整理には反論の余地があるものの、音楽リテラシーの備わった人ならばともかく、ファンがアイドルについて語るには感動、応援、消費、記憶といった「私的体験」に準拠するより他はなく、客観的指標に逃れることは原則として不可能である。言い換えれば、「私的体験」による「思い出補正」のもとには、どんなクオリティーの低い楽曲すら「神曲」として崇められるのがオチであり、このような思い入れの前には、楽曲の完成度など二の次に過ぎない。

 というアイドルソング評価の不可能性を大前提として共有してしまえば、音楽の素人が選んだランキングなど、インスピレーション以外の何ものでもない。第一印象、ノリの良さ、カタルシス、感情移入、その場の気分。これら全てが混濁したアイドル的意識の断片が、このランキング結果として公表するのみである。

 さて、それでは2011年のアイドル情勢とはどのようなものであったか?一言でまとめてしまえば、AKBグループが昨年に切り開いたアイドルブームが、様々なパターンで拡散していった一年だと言える。それは、(1)東京から各地方都市へ空間的広がり、(2)AKBグループの総選挙に端を発する選別とコンセプトの多様化、(3)その差異化戦略の延長線上としての楽曲の多様化、である。

 ブーム後のニッチ狙い過ぎの差異化徹底は、2000年代中盤から後半のグラビアアイドルブームとして既に体験しているが、今年は歌って踊る正統派アイドルの差異化が徹底した結果、必ずしも知名度の高くないアイドルが偶発的に良曲をリリースすることが多かった。であるならば、中堅以下の実験的アイドルグループが良曲に恵まれ、AKB48グループやハロプロなどの大所帯が伸び悩んだのも必然性がある。ブームを牽引してきたAKBや不沈空母ハロプロは、既にポストアイドルブームを見据え、安牌路線に傾斜しつつあるのが楽曲傾向としても現れたのだろう。

 アイドルにとって楽曲の良し悪しが副次的要素に過ぎないならば、楽曲のクオリティーが低いことなど、ファンには当然甘んじてしかるべき事実であって、偶然出会った楽曲が「良曲」「神曲」であったとしても、それは前述したアイドルブーム余波による差異化戦略の一貫でしかあり得ない。来年以降、固定ファンとマネジメントの蓄積、企画と実行を大胆に行えるこれら大グループを除いて、多くのアイドルグループは適者生存の厳しい洗礼を受けることになるだろう。固定ファン確保やローカルアイドルとしての定着など足元を徹底しない限り、「戦国時代」は「ブーム」として過ぎ去り、今年のような豊作は二度と起こらないかもしれない。

 というわけでランキング。

1.東京女子流/鼓動の秘密
 今年、他を差し置いて注目すべきは当然、東京女子流avexらしく90年代ダンスミュージックの名残を残しながら、名アレンジャーの松井寛によってほとんどの楽曲が編曲されているくれば、ハズレなしだろう。氏のアイドルソングとしては、「アイドル冬の時代」の奇跡的単発のモーニング娘。笑顔YESヌード』に次ぐヒット。シングル曲はもちろん、アルバム曲の完成度も非常に高い。次点に『ヒマワリと星屑』『孤独の果て〜月が泣いている〜』


2.でんぱ組.inc/くちづけキボンヌ
 ベタベタなアイドルポップしか歌っていなかったでんぱ組.incと、かせきさいだぁ、木暮晋也という奇妙な組み合わせで生まれた良曲。経緯も知らないし、およそ偶発的だろうけど、路線変更も考えていいくらい。

3.Tomato n' Pine/ワナダンス!
 『旅立ちトランスファー』や『ジングルガール上位時代』などのシングルもいいけど、『ジングルガール上位時代カップリングのこの曲を。70sディスコソングのようなグルーヴ感が心地よい。

4.BiS/My Ixxx
 アイドルを研究し、アイドルになる。ヤバさを追求するダークホース的なイメージが正しいのかわからないけど、楽曲がいいのは間違いない。メンバーが裸に見えるMVが話題を呼んだこの曲を。次点に『primal.』

5.ノースリーブス/錯覚
 150曲を超える曲がリリースされたAKBグループから、ファンでもほとんどノーマークのこの曲を。フレキスの柏木由紀のように他のユニットが特定メンバー頼みなのに対して、ノースリーブスは三人の歌声が見事に差別化されていてシングル曲も聴き応えがある。最近は『唇触れず…』のようなハードな曲調に傾いているけど、ボイスをPerfumeのようにいじって、意図的に無個性化を狙う意表を突いたこの曲は、ノースリーブスの新たな方向性になるかも。

「作業用BGM」AKB関連のかっこいい曲を集めてみた「AKB48,SKE48」 - ニコニコ動画

6.アイドリング!!!/ア・ナ・ロ・グ
 楽曲傾向が『錯覚』に近いけど。良曲の多いアイドリング!!!からアルバム『SISTERS』収録の『ア・ナ・ロ・グ』。次点に『やらかいはぁと』『いち恋』


7.ぱすぽ☆/少女飛行
 ライバル的な位置のSUPER☆GiRLSに押され気味のぱすぽ☆だけど、楽曲のクオリティーは間違いなくこっちが上。インディーズ時代のハードなロック路線は弱まったものの、アルバム曲と迷ったけどメジャーデビュー曲のこちらを。次点にアルバム『CHECK-IN』収録の『キス=スキ』『Starting Over』。

8.ももいろクローバーZ/オレンジノート
 他の中堅アイドルから頭ひとつ抜けた活躍を見せるももクロからこの名曲を。常に全力でぶち当たるももクロだからこそ歌える切なさがたまらない。曲そのものは去年からライブで歌われていたけど、CD音源はアルバム『バトルアンドロマンス』収録が初なので選曲対象に。次点の『労働讃歌』と最後まで悩んだ。こちらも賛否両論の曲だが、常に攻め続けるももクロファンならば、当然認めるべき一曲。

9.NMB48絶滅黒髪少女
 AKB48グループのシングル曲では今年ナンバーワンのヒット。他グループとの差別化を意識したためか、奇をてらわない王道路線が功を奏した形に。行定勲監督のMVもカッコいい。

http://www.tudou.com/programs/view/7dymgzzq5qU/NMB48_絶滅黒髪少女

10.Dorothy Little Happy/デモサヨナラ
 仙台のローカルアイドルDorothy Little Happyから。少女という一時期の青春に宿る切なさや爽やかを見事に表現した名曲。アイドルソングという形式に純粋にこだわれば、ランキング最上位かもしれない。「好きよ」の反復が心地よく染み入る。

11.AKB48/隣人は傷つかない
 『上からマリコ』に収録のチームAによる一曲。個人的には、『Pioneer』のような宿命感よりも、『胡桃とダイアローグ』のような低音の効いたダークな曲調が好き。次点『Everyday、カチューシャ』『これからWonderland

AKB/48 - 隣人は/傷つかない - ニコニコ動画

12.モーニング娘。/Give me 愛
 10年にわたってモーニング娘。を支える続けた高橋愛をメインボーカルとした一曲。歌唱力の高い彼女の歌がモー娘で聴けなくなるのは悲しい。

以下は曲名のみ。

13.9nineSHINING☆STAR
14.DiVA/No way out
15.pre-dia/Dream Of Love
16.板野友美/wanna be now
17.℃-uteKiss me 愛してる
18.きゃりーぱみゅぱみゅ/チェリーボンボン
19.SKE48オキドキ
20.CQC's/ゆるふわWeekend
21.さくら学院 重音部 BABYMETAL/ド・キ・ド・キ☆モーニング