岡田暁生著『西洋音楽史-「クラシック」の黄昏』(2005)

 

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

 

一八世紀後半から二〇世紀前半にいたる西洋音楽史は、芸術音楽と娯楽音楽の分裂のプロセスであった。この時期の音楽が一般に「クラシック音楽」と呼ばれている。本書は、「クラシック音楽」の歴史と、その前史である中世、ルネサンスバロックで何が用意されたのか、そして、「クラシック後」には何がどう変質したのかを大胆に位置づける試みである。音楽史という大河を一望のもとに眺めわたす。 

第1章 謎めいた中世音楽
第2章 ルネサンスと「音楽」の始まり
第3章 バロック―既視感と違和感
第4章 ウィーン古典派と啓蒙のユートピア
第5章 ロマン派音楽の偉大さと矛盾
第6章 爛熟と崩壊―世紀転換期から第一次世界大戦
第7章 二〇世紀に何が起きたのか

 

池内紀著『闘う文豪とナチス・ドイツ-トーマス・マンの亡命日記』(2017)

 

大作『ブッデンブローク家の人々』で若くして名声を獲得し、五十四歳でノーベル文学賞を受賞したドイツ人作家トーマス・マン。だが、ファシズム台頭で運命は暗転する。体制に批判的なマンをナチスは国外追放に。以降、アメリカをおもな拠点に、講演やラジオ放送を通じてヒトラー打倒を訴え続け、その亡命生活は二十年近くに及んだ。激動の時代を、マンはどう見つめ、記録したか。遺された浩瀚な日記から浮かび上がる闘いの軌跡。

I クヌート・ハムスンの場合 / レマルクのこと / リトマス試験紙 / プリングスハイム家 / 二・二六事件 / 二つの喜劇
II 大戦勃発の前後 / ドイツ軍、パリ入城 / 転換の年 / 奇妙な状況 / ホモ・ポリティクス / ツヴァイクの場合 / 立ち襟と革ジャン
III 封印の仕方 /「白バラ」をめぐって / ゲッベルスの演説 /『ファウストゥス博士』の誕生 / 終わりの始まり / 噂の真相 / 終わりと始まり /
IV ニュルンベルク裁判 / 父と子 / 再度の亡命 /「正装」の人 / 魔術師のたそがれ / 最後の肖像

 

ナタリー・ゼーモン・デーヴィス著, 成瀬駒男訳『帰ってきたマルタン・ゲール―16世紀フランスのにせ亭主騒』(1983=85→93)

帰ってきたマルタン・ゲール―16世紀フランスのにせ亭主騒動 (平凡社ライブラリー)

帰ってきたマルタン・ゲール―16世紀フランスのにせ亭主騒動 (平凡社ライブラリー)

妻子を残して失踪したが、八年後、突然姿を現した。だが彼の正体は…。奇妙な事件をもとに、当時の名もなき男女の〈歴史〉を、資料から得た知識と独自な想像力、証拠と可能性を交錯させつつ鮮やかに描きだす。

日本語版へのまえがき
序文
1 アンダユからアルティガへ
2 欲求不満の農民
3 ベルトランド・ド・ロールの貞操
4 アルノ・デュ・ティルのいくつかの顔
5 手作りの結婚
6 仲たがい
7 リューでの裁判
8 トゥールーズでの裁判
9 マルタン・ゲールの帰還
10 物語作家
11 驚倒すべき物語、悲劇的な物語
12 足の不自由な人について
結び
補遺 判決文
訳者あとがき
平凡社ライブラリー版 訳者あとがき
解説 証拠と可能性 カルロ・ギンズブルグ/上村忠男訳
図版提供一覧
マルタン・ゲールに関する著述の主要書誌

20, 26 プラッター『放浪学生プラッターの手記』

放浪学生プラッターの手記―スイスのルネサンス人

放浪学生プラッターの手記―スイスのルネサンス人

22, 26 ギンズブルグ『チーズとうじ虫
チーズとうじ虫―― 16世紀の一粉挽屋の世界像 (始まりの本)

チーズとうじ虫―― 16世紀の一粉挽屋の世界像 (始まりの本)

モーゼス・フィンリー著『オデュッセウスの世界』(1954→78=94)

オデュッセウスの世界 (岩波文庫)

オデュッセウスの世界 (岩波文庫)

イギリスの歴史家フィンリー(1912‐86)の、明快で読みものとしても楽しめるギリシア古代史入門。社会学、人類学の成果を踏まえ、二大叙事詩イリアス』『オデュッセイア』を詳細に読みこむことによって、ギリシア古代がどのような社会であったかを説き明かし、新しいホメロス学の方法を提起したものとして大きな反響を呼んだ。

第1章 ホメロスギリシア
第2章 吟唱詩人と英雄たち
第3章 富と労働
第4章 家庭・親族および共同体
第5章 道徳と価値
補遺1 『オデュッセウスの世界』再見
補遺2 シュリーマントロイア―百年を経て

丸山眞男, 加藤周一著『翻訳と日本の近代』(1998)

翻訳と日本の近代 (岩波新書)

翻訳と日本の近代 (岩波新書)

日本の近代化にあたって,社会と文化に大きな影響を与えた〈翻訳〉.何を,どのように訳したのか.また,それを可能とした条件は何であり,その功罪とは何か.活発な言論活動を続ける評論家の問いに答えて,政治思想史研究の第一人者が存分に語る.日本近代思想大系『翻訳の思想』(1991年刊)編集過程でなされた貴重な記録.

1 翻訳文化の到来
 時代状況を考える
 日本にとって幸運な状況 ほか
2 何を、どう、翻訳したか
 なぜ歴史書の翻訳が多いのか
 歴史を重んずるのは日本的儒教だからか ほか
3 「万国公法」をめぐって
 幕末の大ベストセラー
 英語・中国語・日本語を対照する ほか
4 社会・文化に与えた影響
 何が翻訳されたか
 化学への関心はなぜか ほか

ヘイドン・ホワイト著, 岩崎稔訳『メタヒストリー−19世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力』(1973=2017)

メタヒストリー――一九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力

メタヒストリー――一九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力

歴史学に衝撃をもたらした“伝説の名著“ 翻訳不可能と言われた問題作が43年を経て、遂に邦訳完成!

[日本語版序文]
ようやく! そして、メタヒストリーを再考することの意味について

[四〇周年記念版への前書き]
「きみが手にしているすべてが歴史だ」(マイケル・S・ロス)

四〇周年記念版への序文

一九七三年版への序文

序論●歴史の詩学
歴史学的作品の理論
プロット化による説明
形式的論証による説明
イデオロギー的意味による説明
歴史叙述のスタイルという問題
喩法の理論
一九世紀の歴史意識の諸段階

■第1部■受け入れられた伝統――啓蒙と歴史意識の問題

第1章●隠喩とアイロニーのはざまの歴史的想像力
はじめに
啓蒙の歴史叙述の弁証法
歴史叙述の伝統的な概念
歴史、言語、プロット
懐疑主義アイロニー
啓蒙以前の歴史叙述の主要形式
ライプニッツと啓蒙
歴史の場
啓蒙の歴史叙述の到達点
啓蒙の歴史叙述に対するヘルダーの叛乱
ヘルダーの歴史理念
ヘルダーからロマン主義と観念論へ

第2章●ヘーゲル――歴史の詩学アイロニーを超える方法
はじめに
言語、芸術、歴史意識
歴史、詩、レトリック
可能なプロットの構造
包摂的なプロット構造としての悲劇と喜劇
即自的歴史と対自的歴史
即自かつ対自的歴史
構造としての《歴史の場》
国家、個人、悲劇的歴史観
過程としての《歴史の場》
悲劇から喜劇へ
世界史というプロット

■第2部■一九世紀の歴史記述における四種類の「リアリズム」

第3章●ミシュレ─―ロマンスとしての歴史的リアリズム
はじめに
一九世紀における歴史学の古典
歴史哲学に抗する
歴史叙述
隠喩的様式における「リアリズム」としてのロマン主義歴史学
「存在の混沌」としての歴史の場
ミシュレ─―隠喩として説明され、ロマンスとしてプロット化された歴史叙述

第4章●ランケ─―喜劇としての歴史的リアリズム
はじめに
ランケの歴史学的方法の認識論的基礎
喜劇としての歴史過程
歴史的分析の「文法」
歴史的事件の「構文論」
歴史解釈の「意味論」
ランケにおける歴史的理念(イデー)の保守的含意
喜劇としてプロット化された歴史
歴史的方法として有機体論を本格的に弁護すること
小括

第5章●トクヴィル――悲劇としての歴史的リアリズム
はじめに
弁証法に抗って
二つの様式における詩と歴史
自由主義の仮面
社会的調停の歴史叙述
歴史過程の「構文論」
アメリカの歴史の「意味論」
ヨーロッパ史というドラマ
リベラルな視点、保守的な語調
アイロニーの視座から見る悲劇的対立
革命というドラマのアイロニー的解決
アイロニー的視点がもつイデオロギー的意味に抵抗する試み
ゴビノー批判
アイロニーへの転落
小括

第6章●ブルクハルト――風刺劇としての歴史的リアリズム はじめに
ブルクハルト――アイロニー的世界観
世界観としてのペシミズム――ショーペンハウアーの哲学
歴史意識の基盤としてのペシミズム
風刺劇的スタイル
歴史過程の「構文論」
歴史の「意味論」
「風刺(サトゥーラ)」のプロット構造
隠喩に抗って
アイロニーとしてのリアリズム
歴史と詩
小括

■第3部■一九世紀後期の歴史哲学における「リアリズム」の拒否

第7章●歴史意識と歴史哲学の再生

第8章●マルクス――換喩の様式における歴史の哲学的弁護
はじめに
マルクスについて研究するという問題
歴史をめぐるマルクスの思想の核心
分析の基礎モデル
歴史的実存の「文法」
歴史過程の「構文論」
歴史の「意味論」
具体的な歴史的出来事に適用されたマルクスの方法
茶番劇としての歴史
小括

第9章●ニーチェ――隠喩の様式における歴史の詩的弁護
はじめに
神話と歴史
記憶と歴史
道徳と歴史
真理と歴史
小括

第10章●クローチェ――アイロニーの様式における歴史の哲学的弁護
はじめに
批評としての歴史哲学
「芸術の一般概念のもとに包摂される歴史」という試論について
歴史意識の美学
歴史的知の本性――共通感覚が与える正当化
歴史学的知の逆説的な本性
クローチェの歴史観念のイデオロギー的意味
適用された批評の方法――アイロニーの馴致効果
クローチェ対マルクス
クローチェ対ヘーゲル
クローチェ対ヴィーコ
ブルジョアイデオロギーとしての歴史学

結論

[日本語版解説]
メタヒストリーとは、いかなる問いなのか? (岩崎稔)

参考文献一覧
1.本文内で分析された著作
2.歴史学・歴史哲学・批判理論に関する本文内で言及した著作
3.ヘイドン・ホワイトの著作(単著、共著、共編著)
4.ヘイドン・ホワイトの著作・論文の翻訳
5.ヘイドン・ホワイト論

三谷太一郎著『日本の近代とは何であったか―問題史的考察』(2017)

政党政治を生み出し、資本主義を構築し、植民地帝国を出現させ、天皇制を精神的枠組みとした日本の近代。バジョットが提示したヨーロッパの「近代」概念に照らしながら、これら四つの成り立ちについて論理的に解き明かしていく。学界をリードしてきた政治史家が、日本近代とはいかなる経験であったのかを総括する堂々たる一冊。

序章 日本がモデルとしたヨーロッパ近代とは何であったか
第1章 なぜ日本に政党政治が成立したのか
 政党政治成立をめぐる問い
 幕藩体制の権力抑制均衡メカニズム ほか
第2章 なぜ日本に資本主義が形成されたのか
 自立的資本主義化への道
 自立的資本主義の四つの条件 ほか
第3章 日本はなぜ、いかにして植民地帝国となったのか
 植民地帝国へ踏み出す日本
 日本はなぜ植民地帝国となったか ほか
第4章 日本の近代にとって天皇制とは何であったか
 日本の近代を貫く機能主義的思考様式
 キリスト教の機能的等価物としての天皇制 ほか
終章 近代の歩みから考える日本の将来
 日本の近代の何を問題としたのか
 日本の近代はどこに至ったのか ほか