斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(2020)

 

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)

 

人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。それを阻止するためには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。いや、危機の解決策はある。ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!

はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章:気候変動と帝国的生活様式
 気候変動が文明を危機に

 フロンティアの消滅―市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義
第2章:気候ケインズ主義の限界
 二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない
第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つ
 なぜ資本主義では脱成長は不可能なのか
第4章:「人新世」のマルクス
 地球を〈コモン〉として管理する

 〈コモン〉を再建するためのコミュニズム

 新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
 生産力至上主義が生んだ幻想

 資本の「包摂」によって無力になる私たち
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
 貧しさの原因は資本主義
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
 コロナ禍も「人新世」の産物

 脱成長コミュニズムとは何か
第8章 気候正義という「梃子」
 グローバル・サウスから世界へ
おわりに――歴史を終わらせないために

 

ジョナサン・クレーリー著, 石谷治寛訳『24/7 -眠らない社会』(2013=2015)

 

24/7 :眠らない社会

24/7 :眠らない社会

 

資本主義は睡眠を終わらせる。現代社会の「知覚の危機」を考察する長編エッセイ。いまや情報管理社会は、人々の睡眠時間をコントロールするまでに至っている。人々は24時間、情報や視覚イメージの生産・消費機構の中におかれ、眠らない世界=24/7に住むようになりつつある。映画、美術作品などを例に挙げつつ、アメリカの現代美術史を代表する碩学が問いかける警世の書。

第1章 不眠社会の誕生
第2章 加速するテクノロジーと消費
第3章 24/7の管理社会
第4章 生の物象化と共同性の夢

 

宮入恭平著『ライブハウス文化論』(2008)

 

ライブハウス文化論 (青弓社ライブラリー 53)

ライブハウス文化論 (青弓社ライブラリー 53)

  • 作者:宮入 恭平
  • 発売日: 2008/05/23
  • メディア: 単行本
 

夢を追う若者たちから団塊世代までが集うライブハウス。ロック喫茶・ジャズ喫茶に出自をもち、1960年代にはカウンター・カルチャーを支える一方で、80年代に高度に商業化していく歴史を追い、カラオケなどとも比較して「生演奏の空間」の魅力とゆくえに迫る。

はじめに――ライブハウスを語る前に

第1章 ライブハウスの全貌
 1 ライブハウスのイメージ
 2 ライブハウスの現状
 3 ライブハウスの変遷

第2章 ライブハウスとミュージシャン
 1 ロック系ミュージシャン
 2 ライブハウスのミュージシャン

第3章 ライブハウスと音楽空間
 1 パフォーマーとオーディエンスの固定的関係
 2 パフォーマーとオーディエンスの流動的関係
 3 ライブハウスでのパフォーマーとオーディエンスの関係

第4章 ライブハウスとノスタルジア
 1 団塊世代と音楽
 2 団塊世代の音楽消費
 3 ノスタルジアとしての音楽

第5章 ライブハウスとミュージック・クラブ
 1 ライブハウスとミュージック・クラブ
 2 音楽ブームと音楽シーン
 3 天国のアーティストと地下鉄のミュージシャン
 4 カラオケとKARAOKE

第6章 ライブハウスのゆくえ
 1 ライブハウスの存在意義
 2 ライブハウスのゆくえ――ライブハウスを語り終えて

あとがき

ニーガス『ポピュラー音楽理論入門』 

ポピュラー音楽理論入門
 

 佐藤『荻窪ルースター物語』

 

鳩飼未緒「日活ロマンポルノと女性観客ー『実録阿部定』が示す親和性」『映像学』2016年, 96巻, p.27-47

本文

本稿は日活ロマンポルノの田中登監督作、『実録阿部定』(1975 年)を論じる。異性愛者の男性観客をターゲットに製作され、同時代的にはほぼ男性のみに受容された本作が、想定されていなかった女性観客との親和性を持ち、家父長主義的なジェンダー規範を再考させる転覆的な要素を内包することを説き明かす。背景にあるのは、ロマンポルノに関する既存の言説が男性の手による批評ばかりで学術的見地からの評価が進んでおらず、同時代的にも少数ではあれ存在し、昨今その数を確実に増やしている女性観客の受容の問題が論じられていない現状に対する問題意識である。そこで第1 節ではロマンポルノにおける女性の観客性を考察するうえでの古典的なフェミニスト映画理論の限界を明らかにしつつ、ジェンダー固定観念を逸脱する表象の豊富さによって、ロマンポルノが異性装のパフォーマンスと呼べるような流動的な観客経験をもたらしうることを論じる。続く第2 節では『実録阿部定』の視聴覚的・物語的要素を仔細に検討し、とりわけヒロイン定の表象が保守的なジェンダー観に背くものであることを確認する。最終的には、第2 節で考察した特徴によって『実録 阿部定』が女性観客に異性装的な観客経験による映画的快楽をもたらすことを示し、さらには女性の主体的な性的快楽の追求を肯定させる仕組みがテクストに内在することを明らかにしたい。

 

吉田豪著『サブカル・スーパースター鬱伝』(2012→2014)

 

サブカル・スーパースター鬱伝 (徳間文庫カレッジ)

サブカル・スーパースター鬱伝 (徳間文庫カレッジ)

  • 作者:吉田 豪
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 文庫
 

昭和平成世紀末、ゼロ年代にIT世代、戦後団塊高度成長、バブル崩壊経済低迷、日本中のあれこれが変革するなか、若者文化の一翼をになったサブカルチャー。しかしそんなサブカルものも不惑を境になぜか心の落とし穴にハマるという…はたしてそれは真実か、ならばその実体は?現在各方面で八面六臂の活躍を繰り広げる吉田豪が11人の当事者たちに迫る。

リリー・フランキーをはじめ、大槻ケンヂみうらじゅん松尾スズキ川勝正幸杉作J太郎菊地成孔ECD枡野浩一唐沢俊一

 

宮入恭平著『ライブカルチャーの教科書ー音楽から読み解く現代社会』(2019)

 

ライブカルチャーの教科書 音楽から読み解く現代社会
 

日本の音楽シーンを牽引するライブ文化。その要点を読み解くために「メディア」「産業」「法律」「教育」などの視点を解説したうえで、フェスやレジャー、アニソン、部活、アイドルなどの具体的なトピックスを基本的な知識も押さえながら解説する。

まえがき

序 章 ライブカルチャーの全体像
 1 身近な音楽との接し方
 2 真逆の構図
 3 可視化されないデータの裏側
 4 ライブカルチャーから読み解く

第1部 視点

第1章 メディア
 1 ヴァーチャルの侵食
 2 ライブ概念の変遷
 3 ライブ概念の混乱
 4 リアルとヴァーチャルのはざまで

第2章 産業
 1 ポール・マッカートニー
 2 音楽産業とは何か
 3 アドルノの文化産業論
 4 アドルノを超えて

第3章 法律
 1 路上ライブ
 2 路上のルール
 3 囲い込み
 4 規制される文化実践

第4章 政治
 1 「音楽に政治を持ち込むな」問題
 2 音楽と政治の関係
 3 政治性と中立性
 4 ポスト三・一一のライブカルチャー

第5章 社会
 1 ジョシュア・ベルの憂鬱
 2 聴衆の誕生
 3 アーヴィング・ゴフマンの視点
 4 場所の感覚

第6章 アイデンティティ
 1 ボーン・ディス・ウェイ
 2 アイデンティティとしての音楽
 3 アイデンティティの欠落
 4 「周縁」から/へのまなざし

第7章 教育
 1 NコンとJ-POP
 2 音楽と教育の関係
 3 軽音楽部の位置づけ
 4 学校教育の名のもとで

第2部 応用

第8章 アイドル
 1 「YOUNG MAN」
 2 アイドルの変遷
 3 アイドルが意味するもの
 4 ファンとストーカーの境界線

第9章 アニソン
 1 アニソンブーム
 2 アニソンの変遷
 3 蔓延する「アキバ系的なるもの」
 4 二次元と三次元のはざまで

第10章 ツーリズム
 1 ライブ遠征
 2 音楽と観光
 3 ミュージックツーリズム
 4 音楽=場所=アイデンティティ

第11章 ライブハウス
 1 ヒエラルキーの崩壊
 2 ライブハウスの変遷
 3 インディーズの襲来
 4 ポストライブハウスの時代

第12章 ストリート
 1 スタイリッシュなデモ
 2 ストリートの思想
 3 音楽と社会運動
 4 監視社会

第13章 フェス
 1 ロックフェスの成熟とEDMフェスの参入
 2 フェス文化の定着
 3 ライブカルチャーとクラブカルチャー
 4 「モノ消費」から「コト消費」へ

第14章 レジャー
 1 吹奏楽の聖地
 2 音楽とレジャー
 3 シリアスレジャー
 4 ライブカルチャーと発表会文化

あとがき

 宮入『J−POP文化論』

J−POP文化論 (ジェイポップ ブンカロン)

J−POP文化論 (ジェイポップ ブンカロン)

 

 宮入, 佐藤『ライブシーンよ、どこへいく』

ライブシーンよ、どこへいく

ライブシーンよ、どこへいく

 

 生明『ポピュラー音楽は誰が作るのか―音楽産業の政治学

ポピュラー音楽は誰が作るのか―音楽産業の政治学

ポピュラー音楽は誰が作るのか―音楽産業の政治学

  • 作者:生明 俊雄
  • 発売日: 2004/08/01
  • メディア: 単行本
 

 

紙屋牧子「最初期の「皇室映画」に関する考察: 隠される/晒される「身体」」『映像学』2018年, 100巻, p.32-52

本文

本稿は最初期の皇室映画(天皇・皇族を被写体とした映画)に焦点をあてる。昭和天皇(当時は皇太子)が1921年に渡欧した際、国内外の映画会社・新聞社によって複数の「皇太子渡欧映画」が撮影され、それが画期的だったということは、これまで皇室研究またはジャーナリズム研究のアプローチから言及されてきた。それに対して、映画史・映画学のアプローチから初めて「皇太子渡欧映画」について検討したのが、拙論「“ 皇太子渡欧映画” と尾上松之助NFC 所蔵フィルムにみる大正から昭和にかけての皇室をめぐるメディア戦略」(『東京国立近代美術館 研究紀要』20号、2016年、35-53頁)であった。この研究をさらに発展させ、「皇太子渡欧映画」(1921年)以前に遡ってリサーチした結果、「皇太子渡欧映画」に先行する映画として、有栖川宮威仁(1862-1913)が1905年に渡欧した際に海外の映画会社によって撮影された映画が存在すること、それらには複数のバージョンがあり、そのうちの1 本がイギリスのアーカイヴに所蔵されていることが判明した。本稿では、これらの映画がつくられた背景について明らかにすると同時に、この映画が皇室のイメージの変遷の中で持つ歴史的意味について考察した。その結果、「有栖川宮渡欧映画」は、「皇太子渡欧映画」への影響関係もうかがえるものであり、戦前期の「開かれた」皇室イメージの形成への歴史的流れを考えるうえで、きわめて重要な参照項となり得る映画であるという結論に至った。